技能実習/特定技能制度を【徹底解説】シリーズ「日本で働く外国人」①

はじめに

日本では、国内の労働力不足が心配されている中、外国から来る労働者の活躍の場が増加しています。厚生労働省によると、2023年10月末時点での日本国内の外国人労働者数は2,048,675人に達し、前の年と比べて225,950人(11%)増えました。特にインドネシアからの労働者は前の年と比べて56%増の121,507人と急増しています。外国人労働者を雇用する事業所数も318,775所に達し、こちらも過去最高を記録しました。

このように増加し続ける日本で働く外国人ですが、彼らがどのような制度のもとで日本に来ているか、皆さんは知っていますか?「技能実習生」や「特定技能」などのキーワードは皆さんも聞き覚えがあるかもしれません。先月2024年6月、「技能実習制度」と「特定技能制度」をめぐる状況を踏まえ、技能実習制度を廃止し「育成就労」制度を新たに始めることが参議院本会議で可決・成立しました。このように、外国からの労働者が年々増加する中、それにまつわる制度や環境も変化しています。

そこで、身近な存在になってきている外国人労働者のことを詳しく正しく理解するために、「シリーズ:日本で働く外国人」と題し、複数の記事を通して簡単で網羅的に解説していきます。はじめに本記事では、現在合計60万人以上の外国人が利用している制度「技能実習制度」と「特定技能制度」について説明していきます。

1-1 技能実習制度とは?

技能実習制度は、日本の企業が発展途上国の人々を受け入れ、一定期間の技能訓練を提供する制度です。この制度は、帰国後にその技術や知識を活かして母国の発展に寄与する「人づくり」を目指しています。1993年から続いていて、2023年末はベトナム、インドネシア、中国などを中心に404,556人が技能実習生として日本で働いています。

1-2 技能実習の区分と期間

技能実習の期間は最長で5年間であり、技能のレベルに応じて1号、2号、3号の3つの段階に分けられています。それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

技能実習1号(技能の習得 1年間)
技能実習1号は入国後の最初の1年間で、基本的な技能を習得する期間です。

技能実習2号(技能の向上 2年間)
技能実習2号は1号を修了した後の2年間で、さらに高度な技能を習得します。実践的な技術の向上を目指します。

技能実習3号(技能の熟練 2年間)
技能実習3号は2号を修了した後の2年間で、より高度な技能の熟練を目指します。

実習生はそれぞれのレベルの修了時に技能試験を受験し、試験に合格することで次の段階へ進むことができます。また、3号に移行するには2号修了後1ヶ月以上1年未満の期間で母国に帰国することが必要です。技能実習制度の目的は日本の技術や知識を発展途上国から来た人々に伝えるためと説明しました。一時帰国の要件はこの目的を背景としており、往復にかかる費用は監理団体が負担します。

1-3 受け入れ方式

では、技能実習生はどのように日本に来ているのでしょうか?日本の企業が技能実習生を受け入れる方法は、「企業単独型」と「団体監理型」の2つがあります。

企業単独型
これは、日本の企業が海外にある支店や子会社の社員を日本で直接受け入れる方式です。

団体監理型
これは、監理団体を通じて外国人を受け入れる方式です。インドネシアやベトナムなどの各国には「送出機関」と呼ばれる外国人を日本に送り出すための機関があります。送出機関は、日本にある商工会議所や農業協同組合、公益社団法人などの「監理団体」に外国人を推薦します。そして、監理団体がその外国人を受け入れ、提携している企業などで技能実習を行うのが、団体監理型です。

監理団体の仕事を行うには法務大臣・厚生労働大臣の許可が必要です。営利を目的としないことや技能実習生の適切な待遇などの許可基準が定められています。法務省によると、2023年末の技能実習生受け入れのうち、大多数の98.3%が団体監理型で日本に就労に来ています。

特定技能人材

1-4 受け入れ分野

技能実習生はどのような仕事をしているのでしょうか?技能実習制度の対象職種は細かく枝分かれしています。例えば農業関係では「耕種農業」「畜産農業」、建設業では「鉄筋施工」「建設機械施工」などです。他にも漁業関係、機械金属関係など、合わせて90もの職種があります。

1-5 技能実習生になるための要件

技能実習生になるには、以下のような条件を満たす必要があります。

  • 18歳以上であること
  • 制度の趣旨を理解し技能実習を行おうとすること
  • 帰国後取得した技能を用いる計画があること
  • (企業単独型の場合)海外の現地法人等で常勤の職員であり、日本の事業所に転勤または出向すること
  • (団体管理型の場合)従事しようとする業務の経験、または技能実習を要する特別な事情があること
  • (団体管理型の場合)本国の公的機関から推薦を受けていること
  • 同じ技能実習を過去に行っていないこと

このように団体監理型の場合は、本国の公的機関から推薦を受ける必要があります。各国には実習生を送り出す「送出機関」があると説明しました。送出機関が実習生希望者を教育、選考し、監理団体に推薦しています。

また、例外として「介護」職種の場合は、技能実習1号には日本語能力試験N4、2号にはN3かそれと同等以上の能力も求められています。

2-1 特定技能制度とは?

次に、特定技能制度について説明していきます。特定技能制度とは、国内人材の確保が難しい産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れるための制度です。2023年末時点でベトナム人(53%)インドネシア人(16%)など合計204,453人がこの特定技能制度のもと日本で働いています。発展途上国から来た人々に技術を伝えることが目的の技能実習制度とは異なり、すでに技術を持った外国人を受け入れて働いてもらうのがこの制度の目的です。

2-2特定技能の区分と期間

特定技能制度には特定技能1と特定技能2があります。それぞれの違いを見ていきましょう。

特定技能1
特定技能1は、特定産業分野の相当程度の技能・経験、および日本語能力を持つ外国人向けの在留資格で、在留期間は最長5年です。

特定技能2
特定技能2は、特定分野の熟練した技能を有する外国人のための在留資格で、在留期間の上限はなく家族の同伴も認められています。

このように、特定技能2で働くにはより高度な技術が求められています。また、永住資格の取得条件の一つに「日本に引き続き10年以上在留していること」があります。つまり、特定技能2の場合は永住資格を取得できる可能性があると言えます。しかし、特定技能2は専門性・技能を備え、即戦力となることを技能試験で証明する必要があり、難易度は高くなっています。全特定技能外国人204,453のうち、特定技能2は2023年末時点で37人しかいません。

2-3 受け入れ方式

特定技能外国人を適切な環境で受け入れるために、事業者には次のような条件が設けられています。

  • 日本人と同じように、外国人とも適切な雇用契約を結ぶこと
  • 法令違反をしていないなど、受入れ機関が適切であること
  • 特定技能外国人の日常や社会生活への支援体制があること
  • 支援計画を出入国在留管理庁に提出すること

これらの支援とは、日本語の勉強や生活相談、苦情対応、行政手続きなどのサポートのことです。

他にも、出入国在留管理庁の認定を受けた登録支援機関というものがあります。外国人を受け入れたい企業や個人事業主は、外国人支援についての全ての仕事をこの登録支援機関に委託することで、受入れの条件を満たすことができます。一方、特定技能2は登録支援機関の支援を受けることができません。

2-4 受け入れ分野

特定技能制度の対象職種は、介護、ビルクリーニング、自動車整備、建設、農業、外食業など12分野があります。(特定技能2は介護を除く11分野)

2-5 特定技能外国人になるための要件

特定技能で働くには、それぞれの分野に応じた技能試験と日本語試験に合格する必要があります。技能実習の要件には日本語試験はありませんが、特定技能の場合は、すぐに現場で働けるように日本語能力が条件になっています。また、技能実習を2号まで良好に修了した者は、試験なしで特定技能1に移行することもできます。

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まとめ

今回は、技能実習制度と特定技能制度について、制度の概要や運用について解説しました。日本は人口減少に伴い、労働力不足が深刻化しています。外国人労働者の数は増加し、今後ますます身近な存在となっていくでしょう。このような状況の中、技能実習制度と特定技能制度は、日本の技能を外国人に伝えるだけでなく、日本の労働力不足を支える外国人労働者を育成し、彼らを受け入れる適切な支援体制を整備する役割を果たしているといえるでしょう。

次回の記事では、現行制度の課題や新しく始まる育成就労制度について詳しく解説します。これらの制度を通じて、日本がどのように外国人労働者を迎え入れ、共に成長していくのか、その展望に注目していきます。

<参考URL>

著者

緒方諒(おがたりょう)
慶應義塾大学総合政策学部 在籍
ジョグジャカルタ州立大学留学

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