国際物理オリンピック(IPhO)2023@東京とインドネシア代表の活躍!
5名の高校生がインドネシア代表として奮闘
皆さん、国際物理オリンピック(International Physics Olympiade)って、聞いたことありますか?
数学オリンピックの方が馴染みがあるかもしれませんね。その名の通り、世界中の選手が物理の知識を競う頭脳のオリンピックです。
今回はインドネシアの選手のサポーターとして国際物理オリンピックに参加しました。そこで10日間選手と共に過ごして見えてきた大会の概要や選手の様子などをレポートします。
国際物理オリンピックとは?
先程述べたように国際物理オリンピックは各自の物理分野における知識や技能を競う大会です。その歴史は1967年に遡り、第一回大会はポーランドで開催されました。それ以来ほぼ毎年様々な国で開催され、2023年の第53回大会は日本で開催されました。
今回の大会は新型コロナウイルス流行の影響で4年ぶりの対面開催で、世界80ヵ国、387人の選手が東京に集いました。
国際物理オリンピック2023 インドネシア代表選手
世界大会には各国から約5人の選手が参加します。インドネシアの選手たちの出身はマラン(ジャワ島)、ボゴール(ジャワ島)、リアウ(スマトラ島)、ランプン(スマトラ島)、アチェ(スマトラ島)でした。
大会は10日間ほど開催されていますが、そのうち試験日は2日です。理論試験と実験試験で構成され、各日5時間の試験に臨みます。休憩はなく、一人一人区切られたブースで実力を最大限に発揮できるよう頭をフル回転させます。選手にとっては試験時間が5時間あっても足りません。
また、その他の日には都内や郊外へのエクスカーションが組み込まれ、大会と観光がセットになっています。オリンピックセンター内での日本文化体験もプログラムの一つです。開会式や閉会式での琴、和太鼓などのパフォーマンスや茶道や書道体験、縁日も開催され選手たちに日本文化の魅力を感じてもらえるよう様々な工夫が凝らされていました。
他にも日本企業による科学技術体験コーナーも設置され、選手たちが目を輝かせて企業の説明を聞く様子が見受けられました。
選手たちの奮闘
インドネシアの選手たちは市大会、州大会や全国大会、アジア大会と5段階の選考を経て世界大会への出場を果たしました。その背景にはどのような苦労があったのでしょうか。
先述の通り、今回の大会は理論試験と実験の二部構成ですが、実験の試験対策をするための設備が学校には整っておらず、実験の練習をするためには西ジャワのボゴールの施設に行かないといけません。インドネシアの一般的な学校に実験器具を揃える資金はないので実験試験はヨーロッパが優勢です。
一方、課外活動に関しては、一人は卓球部に入っているとのことでしたがそれ以外は揃って「部活をやっている時間がない/許可されていない」といった答えでした。オリンピックを目指す生徒たちのチームのようなものが学校にあり、それ自体が部活のようだという選手もいました。日本の高校によくある、「全国高等学校クイズ選手権」への出場を狙うクイズ研究会のようなものでしょうか。「自分たちは日本に来られたから幸運だよね、いろいろ犠牲にしても日本に来られない(=世界大会に出場できない)人の方が多い」という選手の言葉が印象的でした。
たしかに、選手たちの話を聞くと、塾で8時から17時まで食事以外の休憩を取らずに実験の練習をした後自宅で理論試験の勉強を24時までしたり、朝から夕方までチームで勉強した後学校で22時まで自習し家で1時まで勉強したりといった生活をしていました。
大学の教育を受けていないことが選手になる条件のひとつであるため、2023年に大学進学を控えており過去の大会に挑戦したものの惜しくも世界大会出場が叶わなかった選手は、今回が最後だという強い想いのもと勉強に臨みました。
物理オリンピックに全てを捧げた末に勝ち取った世界大会への出場であったことが分かります。
国際物理オリンピック2023の結果は・・・
今大会でインドネシアは銀メダル2つ、銅メダル1つを獲得しました。
金メダルは上位約8%、銀メダルは上位25%、銅メダルは上位50%に授与されます。選手の話ではメダルを獲得すると大学に入学する際に奨学金をもらうことができ、メダルの色によって奨学金の額も変わります。「金メダルであれば世界大会で金メダルを獲得したという実績がついてくるのでどこの大学でも奨学金がもらえると思う」といった現実的な話も耳にしました。
インドネシアのライバルについては、インドネシアの選手は中国の選手に勝つことが一つの目標だとよく口にしていました。インド・中国・韓国にはどうやっても勝てないと考えており、ASEANではなく東アジア、南アジア諸国を強敵として意識していました。ASEAN諸国のチームとは特にマレーシアの選手と話している姿がよく見られ、インドネシア語とマレー語は言葉の起源が似ているためお互いの母語で会話していました。
インドネシアの選手は「中国の選手を期間中全然見かけない」「今頃中国の選手は部屋で勉強してるよね」という会話をよくしており、かなり中国を意識している様子が伺えました。実際に中国の選手団は自由参加の都内観光にも参加せず勉強を続けていたようです。
インドネシアの選手たちは始めから中国は金メダル確定だと考えているようでした。確かに、金メダルを獲得するチームはアジア圏が多かったです。実際に中国と韓国、ロシア(ロシアは個人参加扱い)はなんと選手5人全員が金メダルを獲得しました。
大会の反響は?
インドネシアの代表として出場した大会を終えた選手たちにはインドネシア国内の数々のメディアが注目していました。こちらは大会後に東京都のインドネシア大使公邸に招かれた際の記事です。ジャカルタの空港でメディアの取材に答えたり、それぞれの故郷へ帰る際に空港で熱烈な歓迎を受けたりと注目度の高さが伺えました。特にスマトラ島ランプンの歓迎度合いが高いことがこちらの記事からも分かります。
大会後は選手たちはそれぞれ故郷へ戻って自身の進路へと進み始めますが、過去の国際物理オリンピック出場者と共に未来の選手候補者に向けてオンラインで物理の授業を開講するのが伝統です。(物理コースの公式インスタグラムはこちら)未来の代表選手団の育成は大会直後から始まっています。
最後に
いかがでしたか?
国際物理オリンピックは物理の世界に身を置かない人々にとっては普段あまり身近に感じることのない大会ではありますが、物理の世界でインドネシアの国旗を背負った選手5人の奮闘は次の代へ引き継がれ始めています。これを機にインドネシアの様々な分野での活躍にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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著者
渡辺麻友(わたなべ まゆ)
東京外国語大学国際社会学部東南アジア地域/インドネシア語専攻 在籍
2022年インドネシアのガジャ・マダ大学 留学