ドイツにて、1,000名を超えるインドネシア人大学生がインターンシップ詐欺被害に

現在、インドネシアでは海外での就職やインターンシップを推進する動きが急速にみられます。そんな中、海外でのインターンシッププログラムに参加した1,000名以上の大学生が、劣悪な環境や肉体労働をさせられる集団被害に遭ったニュースがインドネシアで話題となっています。今回は、そのニュースの概要および問題点について解説します。

インドネシア政府が推進するインターンシッププログラム「Merdeka Belajar Kampus Merdeka」

現在、インドネシア政府は2020年にMBKM制度(Merdeka Belajar-Kampus Merdeka / 独立したキャンパス、学びの自由)と呼ばれる教育方針を打ち出しており、学生が自分の専門分野だけでなく、幅広い分野での知見を広げられるようにインターンシップ等の校外プログラムへの参加を推奨しています。

国内外の企業で1学期のインターンシップをすることで、約20単位程取得できる新しい制度です。各大学は国内外の企業と提携などをし、学生が学外でのインターンシップ経験を取得できるように様々な企業や職業斡旋業者と提携をしています。

今回の事件の概要

2023年、インドネシア国内の33の大学から1,000人を超える学生がMBKM制度のため、ドイツに「インターンシップ」に参加しに渡航しました。しかし、その大学生らを待ち受けていたのは、思いもよらない劣悪な住環境と肉体労働でした。

ドイツで一般的だというFerienjobとは、夏休みなどの長期休暇中に学生が働くことで、そのほとんどが肉体労働といわれています。(ドイツ本国の学生は、現地の労働法のガイドラインに沿った働き方をしているようです。)一方、インターンシップは一般的に、学生が自身の専攻や将来のキャリアに関連した就業体験を行う活動です。今回問題になっている「偽インターンシップ」問題の被害にあった学生たちは、インターンシップのためドイツへ行き、更に終了後に単位認定もされると説明を受けていました。

コンパス紙のインタビューを受けた女子学生の証言によると、インターンシップのために向かったドイツで、到着後すぐにドイツ語の契約書に内容もわからないまま署名をさせられ、到着翌日から労働が始まったといいます。

労働内容は肉体労働ばかりで、建物のリノベーション工事現場で重い資材を運んだり、レストランでキッチンやトイレ掃除をする、などです。それらの労働現場から滞在先は距離が離れていて、夜遅くの帰宅も稀ではないにも関わらず、現場から最寄りの駅まで真っ暗な寒空の下一時間半もかけて歩いたと言います。

また学生は、エージェントが滞在先への住居費の支払いが遅れ追い出されたり、滞在先を移動するように言われ向かった新たな滞在先は、狭い一部屋を見知らぬ男性と6人でシェアするという酷いものだったと語りました。

今回の事件の問題点

今回の最大の被害者は、このインターンシッププログラムに参加した大学生らです。また、大学生にインターンシッププログラムを斡旋したインドネシアのエージェントが最大の原因になります。では、今回の事件は防げなかったのでしょうか?このインターンシッププログラムの制度について以下のような問題点が挙げられます。

(1)インターンシップ受け入れ先企業の選別プロセスの欠如

基本的に、MBKM制度を利用し単位認定をするインターンシップで学生を送り出す場合、大学がインターンシップ受け入れ先と契約を巻くことが原則となっています。しかし、その契約時には企業のバックグラウンド審査や経営状況、過去のインターンシップ受け入れ状況などのスクリーニングがなく、事実上ほぼ全ての企業がインターンシップの受け入れ可能となります。したがって、今回のような悪質な斡旋業者や企業が受け入れ先となってしまっているということです。

このように学校側がインターンシップの送り出し先に関する適切な選別プロセスを怠っているガバナンスの甘さが指摘されかねません。とはいえ、この制度は2020年に採択されたばかりで、尚且つコロナ禍が明けたここ1〜2年で、国外インターンシップが加速しているという背景もあり、教員の業務量がかなり増加していることも間接的な原因といえるでしょう。

また、企業選別プロセスが統一化されていない制度上の問題ともいえます。

(2)監督不十分なインターンシップスキーム

通常、インターンシップ受け入れ先が大学と契約を巻いた後に、インターン生募集の情報を公開します。しかし、大抵の場合、その募集内容がSNSやウェブサイト、WhatsAppのグループなどでシェアされ、その募集内容に連絡先が記載されており、企業への直接応募が可能となります。つまり、多くの場合、大学側は誰がどのインターンシップに応募したのか把握していないケースが多くみられます。また、その後のインターン生の選考プロセスも企業に一任されており、会社説明や面接なども基本的には企業の裁量によって行われています。

つまり、このインターンシップの応募・選考フローは、大学側からすればブラックボックスになっており、学生を送り出す大学側が学生と企業のやりとりを十分に把握できていないということになります。

今回の事件による影響

今回の事件で注目すべき点は、「大学生が被害者にあった」ということです。技能実習制度などにみられる従来の「ブルーワーカー」の斡旋業者による詐欺事件や違法行為はこれまで度々摘発され、様々なレギュレーションが厳重化してきた背景があります。この場合、高校卒業して間もない若者や借金を抱えた農村部出身の若者が多く、被害者となる事件がほとんどです。

しかしながら、専門的な知識を使うオフィスワーカー(ホワイトカラー)を希望する割合が多い、現役大学生が被害者となったことです。上記のブルーワーカーと比べ、リテラシーも高く、キャリア志向も強くみられます。その現役大学生が被害者となったことで、特にエージェントを経由した斡旋への警戒心が強くなるでしょう。

実際に、取材をしたいくつかの国立・私立大学では、エージェントを経由した採用活動に対して注意喚起を行なったりしています。また、MBKM制度の見直しやプロセスの透明化も進んでいくと予想されます。

エージェント側は、学生により安心なサービスを提供するために、企業情報はもちろん、これまでの実績、紹介する案件の詳細や要件を細かく明確に伝える必要性が強くなっています。

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